The Giant Ace [2024] UKSC 38:ヘーグ・ルールおよびへーグ・ヴィスビー・ルールに基づくミス・デリバリー・クレームの時効
最高裁判所は、The Giant Ace [2024] UKSC 38 における判決で、ヘーグ・ルールおよびへーグ・ヴィスビー・ルールに基づくミスデリバリー請求の時効問題について明確にしました。
背景
本件は、2018年3月に発行された船荷証券に基づく、インドネシアからインドへのコーキングされていない石炭の貨物の輸送に関するものです。FIMBank p.l.c.(以下「銀行」)が船荷証券の保有者として、契約運送人であるKHC Shipping Co. Ltd.(以下「運送人」)に対して提起したミス・デリバリー・クレームが争点となっています。船荷証券はCongenbill 1994書式で発行され、ヘーグ・ヴィスビー・ルールが適用されました。
貨物は、船荷証券の呈示なしに傭船者から運送人への補償状(Letter of Indemnity)の発行をもって荷揚げされました。銀行は、貨物の購入資金を融資していましたが、支払いがなされなかったため、船荷証券に基づき貨物の引渡しを要求しました。しかし、銀行が要求した時には、すでに貨物は荷揚げされ、現地の荷受人の手に渡っていました。そのため、銀行には、船荷証券により、運送人に対してミス・デリバリーを追求する以外の選択肢が残されていませんでした。
銀行は、運送人に対し、貨物の荷揚から2年以上が経過してから仲裁を申し立てたため、この請求はすでに時効であるか否かがこの仲裁の前提的な争点となりました。
銀行の主な主張は、ヘーグ・ヴィスビー・ルールに定められた1年の時効は、貨物の荷揚後のミス・デリバリー・クレームには適用されないため、その請求は時効消滅していないのではないか、というものでした。
第一審判決
第一審裁判所は、仲裁廷裁の判断に同意し、ヘーグ・ヴィスビー・ルールに基づく1年の時効は、貨物の荷揚後、引渡まで、適用されると判断しました。
この高等法院(High Court)の理由付けは、運送人の業務に関する確実性を重視したためです。
控訴院(Court of Appeal)への控訴許可申立てが認められました。
控訴院判決
控訴院は控訴を棄却し、ヘーグ・ルールについては、1年の時効の条文は(ヘーグ・ヴィスビー・ルールと比較して)より限定的な文言で規定されているため、責任期間(すなわち、荷揚までの期間)にのみ適用され、荷揚後のミス・デリバリーには適用されない、と判断しました。
しかし、ヘーグ・ヴィスビー・ルールに関連する限り、控訴院は、ヴィスビー条約の制定の経緯と合致しているため、荷揚後のミス・デリバリーについては1年間の時効が適用される、と判断しました。
さらに、控訴院は、Congenbill書式の第2条c項(同条項は、事実上、積荷前および荷揚後に発生した貨物の紛失または損傷について運送人は責任を負わないことを規定しています。)は、銀行の主張を裏付けるものではない、と判断しました。これは、銀行の請求を完全に排除するか、または、運送人が荷揚後のミス・デリバリーについても責任を負い、かつ、その請求が時効にかかったことを意味するか、のいずれかです。
控訴院は追加して、判断する必要はないものの、荷揚後のミス・デリバリーに1年の時効が適用されないのであれば、その旨の黙示的な条項が船荷証券に認められることになる、と指摘しました。
最高裁判所の判決
最高裁判所が上告を認めたため、この控訴審判決は、事の終わりとはいえません。
最高裁判所は今月初旬に判決を下し、ヘーグ・ルールおよびへーグ・ヴィスビー・ルールのいずれにおいても、荷揚後のミス・デリバリーには1年の時効が適用されるとの判断を示しました。
最高裁の論拠は、ヘーグ・ルールの原則を中心に展開され、特に、(1)使用されている語句の通常の意味、(2)文脈、(3)対象と目的、(4)ルールの制定過程、(5)英国の判例法、(6)国際的な判例法、(7)教科書からの指針に言及して、その理由を説明しています。判決では、「時効の目的は終局性を保証し、会計および帳簿を閉鎖可能とすることにある」として、契約関係における終局性の必要性を強調しました。
ヘーグ・ルールでは、運送人が一定の義務と責任を負う「責任期間」が定められているが、最高裁判所は、すべてのルールがその期間にのみ、限定されるべきだという主張を退けました。
Hamblen裁判官(他の最高裁裁判官も同意見)は次のように述べました:
「ヘーグ・ルールには、責任期間中のみにすべてのルールを適用することを求めるような『巣(nest)』は存在しません。」
Hamblen裁判官の判決は、上記のヘーグ・ルールに基づく立場を踏まえ、ヘーグ・ヴィスビー・ルールに基づく立場も同様であるべきである、と確認しました。これは、時効の規定に関してヘーグ・ヴィスビー・ルールが採用しているより広範な文言によって、さらに裏付けられています。
また、最高裁判所は、Congenbill書式の第2条c項の主張を却下し、この条項は運送人を保護することを目的としているため、運送人がヘーグ・ルールおよびへーグ・ヴィスビー・ルールに基づく時効に依拠することを妨げることはその目的に反する、と強調しました。さらに、この第2条c項はヘーグ・ルールおよびへーグ・ヴィスビー・ルールにまったく言及していないことも指摘されました。
結論
ヘーグ・ルールおよびへーグ・ヴィスビー・ルールにおいて、貨物に関する運送人に対する請求に係る1年の時効に関する規定は、ミス・デリバリーに関する請求についても、それが荷揚後に発生したものであったとしても、適用されることが明らかとなりました。
船主および契約上の運送人は、契約上の時効という重要問題に明確性をもたらすこの判決を歓迎するでしょう。
この判決は、また、請求者が将来の時効を効果的に記録し、または、時効延長を迅速に求めるために相手方と連絡を取るなど、適切な措置を取るよう促す重要な注意喚起にもなるでしょう。
最後に、しかし最も重要なこととして、本件は、補償状に対応して、船荷証券の呈示なしに貨物を荷揚するという、よく見られる慣行に伴うリスクの一例です。本件が示すように、ミス・デリバリー・クレームのリスクは明白であり、そのような要求に応じるかどうかを決定する際に考慮すべき事項であるといえるでしょう。
追加リンク
判決全文はこちら:Fimbank Plc v KCH Shipping Co Ltd - Find Case Law - The National Archives
和訳:田中庸介 (弁護士法人 田中法律事務所 代表社員弁護士)