QLU Spring 2017 May-5:補償状による貨物の引渡しに係るリスクについて(2)
2010年4月23日、Gunvor International BV(「G」)は、United Infrastructure Development Corporation(「UIDC」) に対して、17,000mt(10%の増減あり。)のgasoilを売却することを合意しました。
UIDCにより購入された当該貨物は、Cirrus Oil Services(「C」)に対する同様の量のgasoilの売買契約に合わせるためのものでした。この2つの売買契約は、信用状による支払いを規定していました。2010年4月6日、Cの要求に基づき、UIDCのために、United Bank of Africa(「UBA」)により、Standard Chartered Bank(「SCB」) において、信用状(「原信用状」)が発行されました。2010年4月30日、SCBにより、Gに対して、信用状(「移転信用状」)が移転されました。Gの銀行たるSociété Générale (「SG」)は、移転信用状の取扱いのため、Gの代理人に任命されました。
貨物は、2つの包により、各々、Maria E号とErin Schulte号に船積されました。船荷証券は、SGないしその指図による、との方式で、発行されました。
当初、UIDCは、双方の貨物を、off specであるとして拒否しましたが、交渉後、Maria E号の貨物を減額した代金で購入することに合意し、他方、Erin Schulte号の貨物は、拒否を続けました。
そこで、UBAは、SCBに対して、原信用状を貨物の量と支払額の双方についてこれらを減少させる修正を行うよう、助言しました。他方、SCBは、この修正について合意するよう、UIDCに求めたところ、2010年6月1日、UIDCはこれを合意しました。同じ日、SCBは、Gに対して、移転信用状について、同様の修正をすることを依頼しました。Gの合意を待つことなく、SCBは、UBAに対して、UIDCが上記の修正に合意したと伝えました。これにより、SCBは、移転信用状の元々の文言に従い、原信用状で元来合意されていた金額総額に係るUBAへの求償権を有しない形で、Gに対して総額について、責任を負うこととなりました。
2010年6月4日、Gは、元々の移転信用状に基づき、Erin Schulte号の貨物に関する書類を提示しました。2010年6月7日、SGは、SCBに対し、Gが移転信用状への修正を拒否したことを、正式に確認しました。
そのころ、UIDCは、Erin Schulte号の貨物について、新たな買主を見つけました。2010年6月9日、Erin Schulte号は、荷揚港に到着しました。船荷証券の提示なしに、貨物は、Gにより発行された補償状により、新たな買主に引渡されました。
GとSCBとの間で長らく合意がなされない間、2010年7月1日、Gは、SCBに対して、裁判手続を開始しました。2010年7月7日、SCBは、移転信用状の額面額全額を、利息と経費共に支払い、手続は停止しました。
SCBは、その後、その損失を回収しようと、船荷証券の呈示なしに貨物を引渡したことについて、Erin Schulte号の船主に対して裁判手続を提起しました。基本的な争点は、SCBが訴権を有しているか否か、でした。
第1審では、SCBは、6月4日のGによる書類の最初の呈示により、また、仮にそうではなくても、7月7日も支払を実行するようGから要求されたことにより、船荷証券の適法な所持人になったことを立証することに成功しました。
控訴院判決第1審の判決は、船主により控訴され、控訴院は、SCBは、(i)6月4日、又は、(ii)7月7日に支払を実行した日、又は、(iii)他のいつかに、権利を取得したのか、判断することが求められました。
判示内容1. 6月4日に権利の移転が発生するためには、1992年英国COGSA第5条第2項(b)によれば、SCBは、(船荷証券の占有のみが必要な荷受人ではなく)被裏書人として、Gによる自発的、かつ、無条件の占有の移転と、SCBによるその移転についての無条件の取得があったことを立証しなければならない。船荷証券が最初に提示された際、SCBは、当初、支払を実行することを拒否していたことからすると、その立証は不可能であるから、第1審の判断は破棄される。
2. 貨物は、7月7日までには荷揚されていたから、その日までには、船荷証券は貨物を占有する権利を付与しないことは、争いのないことである。しかしながら、SCBは、なお、貨物の引渡前の契約、又は、他の取り決めにより実行された取引の結果として、船荷証券の所持人となったことを示す余地は残されている。左によれば、上記英国COGSA第2条第2項(a)は満たされる、同条項は、
「ある者が船荷証券の適法な所持人となった時点で、既に、証券の占有により、同証券に関連する貨物の占有をなすことを(運送人に対して)請求する権利を付与されない場合、その者は、第1項により移転されるべき権利を有しない。但し、その者が、次により証券の所持人となった場合は、この限りではない。
(a)貨物を占有する権利が証券の占有と結合することを止めた時点より前になされた契約、又は、他の取り決めに従い実行された取引による場合;.」
控訴院は、支払と書類の移転は、Gが提起した裁判手続を和解するための別の合意により実行されたという、船主の主張とは異なり、その前から存在していた、信用状に関する合意に基づき、実行されたものである、と判示しました。
コメント:本件は、COGSAの下で訴権を立証する際にもたらされる不確実性と複雑さ、及び、船主が船荷証券の原本との引き換えではなく貨物を引渡す際の船主のリスクについての、もう一つの例を提供してくれます。本件では、感謝すべきこととして、Gが提供した信用状の文言により、適切に、船主の立場が保護されました。