QCR Autumn 2018 - 1: シンガポール控訴院は、長く維持されてきた先例から乖離した‐抗弁の実体的当否は、独占的管轄条項を有効として手続を停止すべきか否かを決することについて、もはや、関連性はない。

Vinmar Overseas (Singapore) Pte Ltd v PTT International Trading Pte Ltd [2018] SGCA 65

事実
控訴人は、被控訴人、及び、被控訴人の親会社から、商品を購入するための契約を4つ、締結しました。左の諸契約は、同様に、控訴人に対して、契約の全ての条項が記載された供給契約を送付することにより、最終的には、被控訴人、又は、被控訴人の親会社との間で、締結されました。全ての供給契約には、独占的管轄条項(「EJC」)、すなわち、契約から生じた全ての紛争は、英国高等法院(第1審裁判所)に提起され、最終的に解決されるものとする、と規定された条項がありました。

2014年11月、控訴人は、被控訴人から、スチレン・モノマー(styrene monomer)(注:ポリスチレンやABS樹脂等のプラスチックやゴム・塗料の原料となる化学物質)を購入することを合意し、その主たる条項は、2014年11月21日付のイーメールに記載されていました。2014年11月27日付の控訴人に対するイーメールにより、被控訴人は、「契約草案」として、供給契約(「書面条項」)を送付しました。4つの契約と同様に、この書面条項にも、EJCが含まれていました。

その後、スチレンモノマー(「契約」)の売買契約に関する紛争が生じ、被告人は上訴人に対する訴訟を開始した。 上訴人は、当事者が英国高等裁判所に当該紛争を言及することに同意したことに基づいて手続の滞在を申請した。

裁判

下級審等の判断
登録官補佐(Assistant Registrar)は、控訴人の手続停止の申立を棄却しました。登録官補佐は、当事者が書面条項を受け入れ、従って、(EJCを含む)書面条項が本件契約の一部であることについて、控訴人が適切な主張を行っていることを認めながらも、控訴人は、被控訴人の請求について、真実の、確からしい抗弁を有していないことに基づいて、手続停止を拒否する強い根拠が認められる、と判示しました。

控訴人の、登録官補佐の決定に対する上訴は、控訴人は真実の抗弁を有しないとして、裁判官によっても、棄却されました。

控訴院の判断
控訴院(第2審裁判所)は、上訴を認め、手続の停止を決定しました。

控訴院は、種々の争点を検討し、最も重要な争点は、裁判所は、先例から乖離すべきかどうか、という点でした。控訴院は、そうすべきである、と判断し、EJCに関する申立により手続停止を認めるかどうかについて、抗弁の実体的な側面は無関係である、と判示しました。

1.本件の前のシンガポールにおける考え方

英国法又はシンガポール法においては、ある当事者が、独占的裁判管轄条項の違反に基づき訴訟を提起した場合、手続停止を拒否すべき「強い根拠」がない限り、裁判所は、手続を停止すべきである、とされていました。「強い根拠」が認められるか否かについては、裁判所は、被告が真に、外国での訴訟を望んでいるのか、又は、単に、手続上の利点を得ようとしているだけなにか、という点を含め、様々な要素を検討するべきである、とされていました。

英国法に従い、シンガポールの裁判所は、種々の事件において、停止を申立てる当事者が真実の抗弁を有しない場合には、その者は、合意された管轄地での訴訟を真に望んでいるのではなく、単に手続上の利点を得ようとしているだけであるから、手続停止の申立は拒否されるべきである、と判示してきました。香港の裁判所も、同様の見解を有しています。

2.本件の後のシンガポールにおける考え方

英国法における考え方は、(Donohue v Armco事件([2002] 1 Lloyd's Rep 425)の後)変更されました。すなわち、当事者らが、外国の裁判所に管轄権を付与する独占的管轄条項を合意し、その当事者の一人がその条項に違反して英国で訴訟を提起した場合、契約外の当事者の利益が関係していない限り、「多くの場合において」手続を停止して当該条項を有効なものとします。香港の裁判所も、この英国の考え方を適用しました。

種々の先例を検討して、(シンガポールの)控訴院は、ルールを変更しました。EJCに関する申立において、手続停止を拒否する「強力な根拠」があるかどうかという、原則的なテストは存続しています。「強力な根拠」があるかどうかを決するに重要な訴嘘を検討する際、裁判所は、シンガポールか海外のいずれかにおいて訴訟を行うについての比較的な便宜さに関する要素は、契約締結時に予見可能なものであれば、それほど重要なものではないことを、裁判所は留意しなければなりません。

控訴院は、また、以前の考え方から乖離する時が来た、と判示しました。EJCに関する申立において手続停止を決する際に、抗弁の実体的な側面は、無関係である、と判示しました。

控訴院は、さらに、紛争に関係する当事者が、管轄条項を合意した当事者だけである場合、EJCに関する申立について、手続停止を否定するための一般的な根拠が、少なくとも2つ、存在することを認めました。すなわち、手続が悪用された場合と、公正が否定される場合です。

3.残された問題点

控訴院により、本件に関連しないことから、いくつかの問題点が残されました。

一つの問題点は、シンガポール法上の現在の考え方が、原告が公称する立場になかったような、船荷証券や標準書式契約書における管轄条項に適用されるかどうか、という点です。本件で控訴院は、同様の原則が適用されるべきであるとの見解に対して、「暫定的な賛成」を表明しましたが、この点は、今後の事件での決定に委ねています。

コメント

(英国、香港、及び、シンガポールを含む)多くの国の裁判所において、EJCに関する申立について手続の停止を認める、強固なアプローチを取るものと認められることを考えますと、メンバーにおかれましては、独占的管轄条項における管轄について、より慎重な検討がなされるべきものと考えます。

本件Vinmar事件判決は、原告が、被告が真実の、又は、確からしい抗弁を有しないことのみをもって、手続停止が認められるべきではないと主張することは、もはや不可能であることを、明確にしました。

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PI Club

Date2018/12/13