回覧05/23：ロシア産原油等プライスキャップ制度の更新情報 ―報告要件、制裁回避アラートおよびロシア産燃料油

英国の報告要件

英国政府は、ロシア原産の原油に関して EU/G7のプライスキャップ制度を実施するための一般ライセンス(GL) General Licence INT/2022/2469656を2022 年 12 月 4 日に発表しましたが、これは2023年2月3日に石油製品に関するプライスキャップ制度が別途導入されたため、改訂されました。

このGLに依拠し、英国に居住または事業を行う保険者 (英国保険者) は、ロシア産原油または石油製品を、ロシアの港から第三国へ、またはロシア以外の国から、あるいは船舶間移送（STS）を通して行う海上輸送の記録を保持する必要があります。

2022 年 3 月に英国政府が発行した一般貿易ライセンス (GTL) は、GTLが使用される度に記録を残すことを条件として、保険者が、ロシアに寄港あるいはロシア領海を通過する船舶に対して保険を提供することを許可するというものでしたが、GLの記録管理要件はそれよりも広範囲となっています。　2022 年 5 月 18 日付の国際グループの 回覧（当クラブ回覧03/22）で、英国居住の P&I クラブまたは英国に本拠地を持つ子会社、支店、およびクラブ管理者がGTLに依拠できるよう、船主メンバーが、ロシアに寄港あるいはロシア領海を通過する度に、P&Iクラブ等に報告する必要があることをお知らせしました。

EUの輸入禁止

さらに、EU 理事会規則 833/2014 の第3m条により、ロシアの原油および石油製品を EU に輸入することは、非常に限られた例外や特例を除いて、禁止されていることにご留意ください。この禁止措置は航海のあらゆる区間を対象としています。つまり、禁止措置は EU 向けに貨物を輸送する船舶だけを対象としているわけではありません。 EUが禁止するロシアの貨物をEU に輸入した場合、その原油及び石油製品を積載した船舶は制裁違反ということになります。 同条項では、EU 向け貨物の海上輸送のための保険を含む融資または財政支援も禁止しています。制裁違反により、保険の停止や終了条項の発動を引き起こすことになり、無保険の状態となる可能性があります。 貨物が EU 向けであることを知らず、疑う合理的な理由がなかった場合、船舶とその船主および保険者は抗弁ができる可能性はあります。

したがって、例えば、A 船がロシアの石油を積載し、それを B 船に移送し、その石油またはその一部が EU に配送された場合、AとBの両船舶と（潜在的に）その保険者の両者が EU やおそらく他の制裁に違反したということになります。 EU の制裁は、単に運搬船または複数の船舶を見るのではなく、問題の貨物に注目するという原則に従っています。

要約すると：
• ロシアのすべての港への寄港とロシア領海の通過について、航海の詳細をクラブに提供していただく必要があります。
• 上限価格内にあるロシア原油または石油製品の輸送については、船舶がロシアに寄港するか、ロシア領海を通過するかに関わらず、航海の詳細を提供していただく必要があり、宣誓書(attestation) もクラブに提供していただく必要があります。
• ロシアの原油や石油製品の船舶間移送に関与し、貨物が最終的にEUに到着する船舶は、EUの制裁に違反するリスクがあります。不注意による制裁違反に対して確実に防御するため、徹底的なデューディリジェンスが推奨されます。 

本回覧の末尾に添付しました 2022 年 5 月 18 日付クラブ回覧03/22を更新し、（新しい文言は太字で表記しています）プライスキャップ制度に関する一般ライセンス(GL) に基づく報告要件について、メンバーの皆様にお知らせします。

ロシア産石油プライスキャップ制度の制裁回避行為

世界的な原油および製品価格の変動により、ロシアの貨物が適用される上限価格を超えて取引されるリスクが高まっています。クラブは、これらの上限を超える価格で販売された貨物の輸送に保険カバーを提供することはできません。そのため、ロシアの石油貨物を取扱われるメンバーは、相当な注意を払い、貨物が上限価格以下で購入されたかを確認するために用船者から適切な宣誓書を取得する必要があります。 特に価格が上限レベルを超えると、荷送人や販売チェーンに関与する人が貨物の真の価値を曖昧にしようとすることもあるためです。

また、メンバーはクラブ回覧 17/22に記載した通り、プライスキャップ制度の要件が船積みの時点だけでなく、「貨物 が船積みされてから目的地の港で税関を通過するまで」つまり船に積載されている間であることをご承知おきください。したがいまして、メンバーの皆様には、船積み時または航海中のいつでも、取引された場合には、さらに市場の動きを反応して貨物が上限価格を超える価格で販売されないように、関連する宣誓書が航海を通して継続的に有効であることを確認するためデューディリジェンスを実施することを強くお勧めします。航海中のいずれかの時点で、関連する上限価格を超える販売が発生した場合には、クラブのカバーはありません。 メンバーの皆様は、2022 年 12 月 9 日付のクラブ回覧17/22に示されている形式のプライスキャップ宣誓書を、プライスキャップ制度の対象となる貨物を含む最初の航海の前に、当クラブにご提供いただく必要があることにもご注意ください。各クラブは、メンバーが上限価格のある貨物の輸送を継続する場合、翌保険年度の開始時に更新された宣誓書をご提出いただく場合があります。

2023 年 3 月 2 日、米国は Tri-Seal Compliance Note: Cracking Down on Third-Party Intermediaries Used to Evade Russia-Related Sanctions and Export Controls を発行し、ロシア関連の制裁回避について警鐘を鳴らしています。それらは第三者の仲介を使ったり、制裁逃れのため、ロシアのエンドユーザーの正体を隠すために積替えを利用した輸出手法について警告しています。またこのコンプライアンス・ノートでは、一般的な制裁逃れの手口について注目し、下記のような危険信号を挙げています。

• 所有権、資金源または関係国（特に制裁対象国）を不明瞭にするための法人車両の使用
• エンドユーザーフォームへの記入・製品の最終用途に関する情報共有に消極的な顧客
• 実体のないペーパー企業を利用した国際電信送金
• エンドユーザーフォームに記載されていない第三国や事業者からの支払い
• 会社のメールアドレスではなく、個人のメールアドレスの使用
• ウェブサイトの存在がほとんどまたは全くない事業体との取引
• 規制品目をロシアまたはベラルーシへ違法に移送するため、特定の積替え地点を経由して購入すること。積替え地点には中国 (香港とマカオを含む)、アルメニア、トルコ、ウズベキスタンを含む場合がある。

2023年4月17日、米国財務省外国資産管理室（OFAC）は、特に東シベリア太平洋（ESPO）パイプラインおよびコズミノ港などロシア連邦東部沿岸の港を経由して輸出される原油について、プライスキャップ制度を回避している可能性があると警告しました。特に一部のタンカーが、AIS（自動識別システム）を操作して、コズミノ港などロシア連邦東部沿岸に寄港した事実を隠蔽している可能性が懸念されています。

メンバーの皆様はdownload (treasury.gov)より警告の全文を閲覧いただけます。また、最近の詐欺的手法に関する 2022 年 2 月の回覧01/22もご参照ください。船舶のAISをオフにしたり、「スプーフィング」やその他の操作をしないことが重要です。

参考資料：　回覧03/22：　3月17日付 一般貿易ライセンス－ロシアに寄港およびロシア領海を通過する船舶の報告義務
この度、2022年5月18日発行のクラブ回覧03/22を下記の通り修正しました。（新しい文言は太字で表記）

3月17日付 一般貿易ライセンス(General Trade Licence)
－ロシアに寄港およびロシア領海を通過する船舶の報告義務

2022年3月17日、英国政府は、対ロシア制裁改正規則 (UK Russia(Sanctions) (EU Exit) Regulations) の明確化のため、一般貿易ライセンス(GTL)を発表しました。具体的には、このライセンスは、英国に居住または英国で運営する保険・再保険者が、ロシアに寄港する船舶またはロシア領海を通過する船舶に対して保険提供することが、規則の下で合法であるかどうかという問題に対応しています。

一般貿易ライセンスは、こちらで閲覧できます。
https://www.gov.uk/government/publications/general-trade-licence-russia-sanctions-vessels

本ライセンスは、基本的に貿易自体が合法であって、適用される制裁に従っている場合に、英国に居住するクラブ、または英国に本拠地を持つ子会社、支店、およびクラブ管理者が、ロシアとの貿易に従事する、またはロシア領海を通過する船舶から生じるクレームを補償し、保険提供できることを規定しています。ただし、クラブは英国所管大臣に、ライセンスの使用に関連した記録に記載された名前と住所を通知する必要があります。クラブが保持する必要のある記録の内容は、規則76（一般貿易ライセンス：記録）に定められており、以下が含まれます。

• 当該行為の説明。
• 当該行為に関連する物品、技術、サービス、または資金の詳細。
• 当該行為の日付または行為が行われた期間。
• 当該行為に関連する物品または資金の量。
• [保険者の]名前と住所。
• 当該行為に関連する物品の荷受人、または関連する技術、サービス、または資金の受取人の名前と住所。
• [保険者]が知る限りの範囲で、当該行為に関連する商品、技術、サービス、または資金のエンドユーザーの名前と住所。
• [保険者のもの]と異なる場合は、当該行為に関連する商品の供給者の名前と住所。

上記の情報は、記録された暦年の末日からさらに4年の間、当クラブがその記録を保管しなければなりません。

2022年3月17日以降、ロシアに寄港あるいはロシア領海を通過する船舶の所有者は、規則76の要求に従い、できる限り詳細な情報を、その船舶の加入するクラブに報告することが求められています。報告をしない場合には、当該船舶のP&I保険が無効になったり、保険金の支払いができなくなる可能性があります。この要求事項は、（ロシアに居住およびロシアに船籍を有する船舶を含む）すべてのクラブ加入船舶に適用されます。英国に居住するメンバーや、英国籍船舶を運行するメンバーに限って適用されるものではありません。

したがいまして、メンバーの皆様には、ロシアへの寄港あるいは領海通過から1か月以内に、添付のテンプレートにて要求されている情報を、当該航海の船荷証券のコピーと共にご提供いただく必要があります。

ロシア産原油等の上限価格措置

英国の法律では、ロシア原産の原油貨物(CN コード 2709 00)または石油・石油製品(CN コード 2710) の海上輸送、および輸送を可能にする(P&I保険を含む)サービスの提供は、2019年のロシア（制裁）（EU離脱）規則を改正した2022年ロシア（制裁）（EU離脱）（修正第16号）規則の下で禁止されています。 本規則は、ロシア原産の原油貨物に対して2022年12月5日、石油・石油製品に対して2023年2月5日に施行されました。

英国をはじめEU、米国、オーストラリア、カナダ、日本で構成されるプライスキャップ同志国は、本規則に対し、第三国間の海上輸送を促進するため、ロシア原産の原油および石油製品をプライスキャップ価格以下で販売する場合において、プライスキャップ例外規定を設けました。関連する価格上限は、現在、原油が 1 バレルあたり 60ドル、原油より割安に取引される石油製品が1バレルあたり45ドル、原油より割高に取引される石油製品が1バレルあたり100ドルとなっています。

英国では、一般ライセンス(General Licence)で、ロシア原産の原油または石油製品をロシアから第三国、または第三国から他の第三国への海上輸送および輸送を可能にする(P&I保険を含む)サービスの提供を許可することにより、プライスキャップ制度を実施しています。ただし、原油または石油製品の1バレルあたりの価格が、船舶への積載時から仕向港での通関が完了するまでの間、関連するプライスキャップ価格以下であることを条件としています。

GLでは、以下の内容を正確かつ遺漏なく、紙または電子媒体へ英語にて詳細に記録することが求められています。

a) 一般ライセンス（GL）の下で行われる行為の説明
b) 当該行為に関連する商品、サービス、または資金の説明
c) 当該行為が行われた日付、または取引が行われた期間
d) 当該行為に関連する物品、サービス、または資金の価額/数量
e) 一般ライセンス（GL）に依拠する[保険者]の名前と住所
f) 当該行為に関連する物品の荷受人、または当該行為に関連するサービスまたは資金の受取人の名前と住所
g) [保険者] が知る限りの範囲で、当該行為に関連する商品、サービス、または資金の最終受取人の名前と住所。
h) [保険者のもの]と異なる場合、当該行為に関連する商品の供給業者の名前と住所
i) 関連する場合、作成または提供された証明書のコピーこの情報は、記録が作成された年の暦年末より4 年間保管する必要があります。

クラブ回覧17/22：「ロシア産原油等の上限価格措置（プライスキャップ制度）」（2023年2月9日に更新）でご説明した通り、ロシア産原油または石油製品を輸送しようとする船主または用船者は、保険期間中、本船に積載されている期間にプライスキャップを超える価格で販売されたロシア産原油または石油製品を輸送しないという宣誓書をP&Iクラブに提出する必要があります。また、メンバーの皆様は、当該貨物に対して支払われる価格がプライスキャップを遵守していることを示す宣誓書を契約相手より取得する必要があります。

GLでは、ロシア産の原油または石油製品を、ロシアから第三国、またはロシア以外の港から、あるいは船舶間移送(STS)により輸送する際は記録の保管を義務付けています。したがって、船主メンバーの皆様は、添付の最新版スプレッドシートに記載された情報を、該当する航海またはSTSの船荷証券のコピーとともに1ヶ月以内に提供する必要があります。これらの情報が提供されない場合、船舶のP&I保険のカバーが無効となるか、またはクラブがクレームをカバーすることができなくなる可能性があります。本要件は、全ての加入船に適用され、英国に所在するメンバーまたは英国籍の船舶を運航するメンバーに限定されるものではありません。

ロシアが関与する取引は現在、重大な法的制限の対象となっています。メンバーの皆様は、適用される制裁措置に違反する取引については、保証されないことにご留意いただき、ロシアとの貿易を行う前に関係当事者、貨物および取引について徹底的なデューディリジェンスを実施することをお願いたします。

UK P&Iクラブ 日本支店