QCR Spring 2021: 横切り及び狭い水道における規則

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横切り及び狭い水道における規則

Collision – Liability ––Crossing rules – Narrow channel rule – International Regulations for Preventing Collisions at Sea 1972, rules 15, 16 and 17.

最高裁判所は、横切りの航法(規則15条 17条)の適用に関する1972年海上衝突予防規則(「衝突規則」)の解釈について、ほぼ50年の間に初めて、それを明確にしました。 Ever SmartとAlexandra1の行き会いに関し横切りの航法が適用されたという判決により、海事裁判所と控訴裁判所の両方の決定が覆されました。

2015年2月11日、原告のVLCC Alexandra1と被告の75,246grtコンテナ船Ever Smartの間で衝突が発生しました。事件は夜間で視界良好であり、アラブ首長国連邦のジェベルアリ港につながる狭い水路(「水路」)の外側の境界のすぐ外側にあるパイロット乗船エリア内で発生しました。Alexandra1は、パイロットの乗船を控え、かなり不規則な進路をとりながら、海側からゆっくりと近づいていました。一方、Ever Smartは、ジェベルアリから、狭い水路をはるかに速い速度で安定したコースで進んでいました。衝突時のEver Smartの速度は12.4ノットでしたが、Alexandra 1の速度は2.4ノットでした。Alexandra1はEver Smartを右舷側に見ており、横切りの航法が適用された場合、Alexandra1は避航船でした。Alexandra1号の不安定な進路及び両船の速度の変化にもかかわらず、両船は、衝突前の23分間、お互いコンパス方位に変化はありませんでした。衝突規則7条と裁判所の決定、および航海専門家の助言すべてにおいて、コンパス方位が変わらず他の船舶に接近することは、衝突の恐れがあることの最も確実な兆候であることを明らかにしました。本船に接近する他船のコンパス方位は、昼間または夜間にレーダーまたはコンパスを使用して簡単に測定できます。

衝突により、両船に3500万米ドルを超える損害が発生し、両当事者は、相手船に過失があると主張しました。

下級裁判所の判決

事実審裁判官は次のように判断しました。Ever Smartの航海士達は、最後の瞬間にAlexandra1を見ただけで良好な視覚的見張りを維持できませんでした。一方、Alexandra1の航海士達は、良好な音声見張りを維持できなかったため、ポートコントロールからの無線メッセージを誤って解釈しました。そのため、彼らはEver SmartがAlexandra1の船尾の後ろ側を通過するように命じられたと誤って考えました。それゆえ、両船双方に過失があるとされました。結果として、Ever Smartは衝突によって引き起こされた損害に対して80%の責任があると見なされ、Alexandra 1は20%の責任があるとされました。

Ever Smartの船主は、Alexandra1が本船から十分に離れていなければならいという、横切りの航法が適用されると主張しました。裁判官は、両船がコンパス方位の変化が無い状況で交差しており、それゆえ衝突の恐れはあったが、それでも横切りの航法は適用しないと決定しました。これには2つの理由があります。第1には、Ever Smartは安定した進路をとっていましたが、Alexandra1は安定した進路ではありませんでした。第2に、狭い水道の航法は、横切りの航法より優先されます。控訴院は裁判官の全員一致で同意し、Ever Smart船主の控訴を却下しました。 Ever Smartの航海には狭い水道の航法が適用され、Alexandra1には規則2条が適用されるということが判示されました。
(TMKK注:規則2条は、海上衝突予防法第39条、第38条にあたる)

その後の彼らの上訴において、最高裁判所は、横切りの航法が両船に適用され、それ故Alexandra1はEver Smartを十分に避けなければならないと、全員一致で決定しました。これにより、上訴は許可されました。

最高裁判所の判決

2人の航海専門家とともに、最高裁判所が決定すべき2つの問題は次のとおりです。

1) 衝突規則の適切な解釈。特に、横切りの航法が適用できないかどうか、それとも、出航船舶が狭い水路内を航行していて、他船が本船の左舷船首(あるいは右舷船首)に位置し狭い水路に入ろうと意図して準備し、航路に接近しながら横切りの進路をとっている場合、横切りの航法は不適用にすべきか。

2) 衝突規則の適切な解釈において、横切りの航法が適用可能かどうかを判断する際、横切りの航法を実施する前に、避航船と推定される船が進路を維持する必要があったかどうか。

最高裁判所は、可能な限り横切りの航法を適用すべきであり、明確な規定がなく、やむを得ない理由がない限り、他規則を優先すべきではないことを明らかにしました。第一に、接近する2隻の船舶のコンパス方位に変化が無く横切っており、すなわち衝突の恐れがある場合、衝突規則では、右舷側に他の船舶がいる避航船は、両船に横切りの航法が適用される前において、進路を保持しなければならない、という要件はありません。少なくとも保持船としての他の船は、最初に進路を保持しなければならないことを意味すると解釈された事例が報告されてはいますが、衝突規則は、どちらかの船が最初に進路を保持すべきである、ということを横切りの航法の適用の条件としてはいません。このような条件は、船舶が横切りの状況で接近すると、変化の無いコンパス方位は衝突の恐れが明確であり、他の接近する船舶が、コンパス方位の変化が無い状況であるかどうかを簡単に確認できるような場合、横切りの航法に与えられる優位性と明確なガイダンスの邪魔になります。しかし、そのような他船が安定した進路に進んでいるかどうかを確認するのは必ずしも簡単ではありません。最高裁判所は、The Alcoa Rambler[1949] AC 236(枢密院)のWright卿の意見を引用して、次のように述べました。「可能な限り」、横切りの航法は「適用され厳格に施行されるべきである。何故なら、それが安全な航海を確保することになるからである」。 

第二に、狭い水路内で2隻の船舶がお互いに反対方向に航行すると、通常、狭い水路の航法は横切りの航法を優先します。一方が水路内にあり、もう一方が水路に接近しているだけの場合、状況はより困難なものとなります。下級裁判所の見解に反して、狭い水路に接近している船がそこに入るのを待っているか、または入るつもりであるだけでは十分ではありません。

接近する船が、接近の最後の段階で、狭い水路の右側に進路をとろうとしているときだけ、横切りの航法は適用されません。横切りの航法が適用されなかったという下級裁判所の2つの理由は、衝突の恐れが現実になるのを防ぐという本質的な機能から横切りの航法を軽視し、また、明確に観察可能な衝突の恐れが存在する場合に、衝突規則によって提供される保護に欠陥を生じさせるものです。または、両方の船が何をしなければならないかを明確に規定する規則がなく、各船は他の船の行動に関する不確実性によって衝突を回避するための努力を妨げられるため、適切な操船術 (good seamanship) の原則がその欠陥を十分に埋めることができるでしょう。

本件では、Alexandra1とEver Smartは、明らかな衝突の恐れのある状況下、かなりの期間、コンパス方位に変化が無く、交差して互いに接近していました。Alexandra1は航行中でしたが、狭い水路に入る前にパイロットの乗船を待っていました。本船は最終的なアプローチを行っておらず、水路の右側への進路をとろうとしなかったため、横切りの航法が適用されました。本船の右舷側にEver Smartがおり、それ故避航船であったため、Alexandra1は、Ever Smartを十分に回避するために早期かつ大幅な避航動作を取る義務がありました。

その結論は、Alexandra1が衝突の唯一の責任を負ったことを意味するものではありません。責任割合の按分は、横切りの航法が本衝突に適用されることを適切に認識した上で、海事裁判所によって新たに実施されなければなりません。

コメント

衝突規則は、安全な航海を促進するように草案されており、世界中のすべての船員およびすべての船舶が均一に理解し、適用できるようにすることを目的としています。本件の判決は、ほとんどの状況において横切りの航法を本質的に単純化し、かつ、再確認し、その優位性を断言し、狭い水路の出入口での横切り状況でどの規則が適用されるか、そして各船舶の義務について船員に実用的なガイダンスを提供するものです。

UK Club Staff

PI Club

Date2021/04/19