Various Claimants -v- Barclays Bank plc (Dr Bates (deceased) and Barclays Group Litigation) [2017] EWHC 1929 (QB)雇用前医療検査を担当する医師、又は、船舶に乗船する医師に関する船主の責任
事実
裁判所は、バークレー銀行は、40年も前の、雇用前医療検査において、契約医師が行ったセクハラについて、使用者責任を負うかという点について、金銭賠償の前提問題として、判断を求められました。原告は、銀行に就職を求め、雇用の条件として、雇用前の医療検査に合格しなければなりませんでした。ベイツ医師は、その自宅で、この雇用前医療検査を行うために、バークレー銀行により、独立した立場として契約された者であり、バークレー銀行は、国中で、同様の契約を地域の医師と結んでいました。ベイツ医師は、また、その医療業務について、地域の病院や他の業界に対しても供給する契約を結んでいました。同医師は、2009年に死亡しましたので、彼個人に対する請求は時間遅れとなりました。
判決
裁判所は、本件において使用者責任が存在するかどうかの判断には、2つの段階的なテストを必要とする、と判示しました。
1) 当該関係は、雇用関係なのか、又は、「雇用に類似する」関係なのか?
裁判所は、5つの公式を当てはめ、医療検査は、まさに、銀行の利益のためのものであり、銀行の業務活動の一環である、と判示しました。医療検査の目的は、銀行が健全な人員を得ることを確保するためであり、それは、業務活動に不可欠のものである、としました。また、将来の、又は、既に入社していた従業員は、検査を受ける意思を選ぶことが出来なかった、とも判示しました。銀行は、既に入社している、又は、将来の従業員に対して、どこに、いつ行くかを指示して、医療検査を手配しました。また、銀行が、その検査の費用を支払いました。さらに、銀行は、ベイツ医師をして、銀行を代理して検査を遂行させることにより、セクハラが起きる危険を生起させました。また、裁判所は、ベイツ医師が2009年に死亡し、その職業上の保険が故意によるセクハラをカバーしないであろうから、銀行には、そのようなリスクに対する保険を付け、原告らへの賠償の手段を得ておくことが期待される、と判断しました。銀行のベイツ医師に対するコントロールの程度について、裁判所は、銀行は、ベイツ医師に対して、行うべき身体検査の性質に関し、詳細な指示を行っており、それは、異常に詳細な、ベイツ医師が完了するべき、バークレーのロゴの入った手順が含まれていたことを認定しました。
2)上記の第1段階のテストに対する回答がyesであれば、不法行為が当該雇用関係、ないし、雇用関係類似の関係に十分関連しているか、が問題とされました。
裁判所は、主張されたセクハラは、銀行による雇用関係に基づく医師の義務の履行と密接に関連しているもの、と認定しました。ハラスメントは、ベイツ医師が遂行することを指示された医療検査の間に行われたものでした。結論として、裁判所は、銀行に対して使用者責任を課すことが公平、正当、かつ、合理的である、と判断しました。
コメント
本決定は、使用者責任に関する法の範囲を、原告側に有利に大きく拡張させたことをも示しています。原告は、ベイツ医師や、その医療保険者(もっとも、この保険者は、主張されたようなセクハラを付保しなかったでしょうが)に対する請求の道がありませんでしたので、裁判所は、銀行が支払いをなすことが正当である、と判断しました。裁判所が主として考慮した点は、銀行は、原告の請求を弁済する資力がある、という事実です。裁判所の判断のこの側面は、最も懸念されるところです。
船主が、医師と独立して契約し船舶に乗船させたり、乗組員の雇用前健康診断(PEME)を実施させたりした場合、検査中にその医師が犯した不正行為の責任を負うことになる危険があります。また他の独立した請負業者への影響は、2つの段階的なテストを適用するかにも依りますが、責任を負うリスクは、この判決を受けてかなり増加しているといえます。
乗組員に対するPEMEは強制的ですが、彼らは診断を受ける診療所と医師を選択できます。乗組員は自ら選んだ医師に自分自身で予約をとります。
しかし船主を、船上勤務の医療専門家の行動によって乗客から訴えられる危険性から、どのように守ることができるかは、より難しい問題です。