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Date
12 December 2018 12/12/2018

P V Q; Q V R; R V S [2018] EWHC 1399 (Comm)

事実
本件は、本船Capetan Girogis号による乾燥穀物の可溶物(solubles)の運送のため、1973年Norgrainフォームにより締結されたback-to-backでの航海傭船契約のチェーンに関するものです。そのチェーンは、次のとおりです。Sinochart社は、本船をP社に航海傭船に供し、P社はこれをQ社に再傭船に供し、Q社はこれをR社に再傭船に供し、R社はさらにS社に対して再傭船に出しました。

各々の傭船契約の第67条には、いかなる請求も、「貨物の最終の荷揚後13か月の間に、相手方当事者に対し書面で通知され、原告の仲裁人が選任されなければならない。左の規定が順守されない場合には、その請求は放棄されたものとされ、絶対的に禁止される。」と規定していました。

時間的経緯は、次のとおりです。

  • 2015年10月16日‐貨物の荷揚が完了。
  • 2016年9月9日‐船荷証券所持人が、厦門海事裁判所にて、Head Ownerに対し、訴訟手続を開始。
  • 2016年11月16日‐契約上の出訴制限期間満了日。
  • 2016年11月16日‐Sinochart社は、請求の通知を受けた。18時44分、P社の事務所が閉まった後、Sinochart社は、P社に対して請求の通知を送付し、仲裁手続を開始。
  • 2016年11月17日‐出訴制限期間の経過後、P社は、請求に気づいたものの、仲裁を開始しなかった。P社のオペレーション部は、11月23日まで、その法務部に通知せず、Q社に対する仲裁は、11月25日まで、開始されなかった。
  • 2016年11月17日‐Q社は、R社に対して、請求を知らせ、R社に対する仲裁を、R社のブローカーに対する通知をもって、開始した。R社は、11月18日、ブローカーを通じて、Q社の通知に気づいたものの、ブローカーは仲裁の通知の送達を受ける権限がない、と主張した。R社は、11月28日まで、弁護士を選任ぜず、また、11月29日まで、仲裁人を選任しなかった。
  • 2016年11月30日‐Q社は、自己の立場を守るため、R社に対し、その11月17日の通知の効果を留保しつつ、新たな通知をおこなった。
  • 2016年12月1日‐R社は、S社に対して、請求を知らせ、仲裁の通知を送達した。

 

従って、当事者間の通知や仲裁の開始は、13か月の出訴制限期間の経過後に、送付され、受領されたことになります。P社、Q社、及び、R社は、高等法院(第1審)に対して、以下の点を申立てました。

  1. 第67条の文言にもかかわらず、各々の請求は制限期間内に通知されたことの確認、及び、
  2. 仮に1が認められない場合、1996年仲裁法第12条に基づき、各々の傭船契約に係る仲裁開始の期間の延期。

 

判決

裁判所に申し立てられた第1の問題点は、第67条は、全ての請求が出訴制限にかかるというように、文言上の意義が付与されるべきか否か、という点でした。当事者が出訴制限の期間が経過する前に請求に気づかなかったために、一定の時間的制限の間に請求を提起できなかったという状況においては、条項の文言上の意義には限定が付されるべきである、と主張されました。しかしながら、この主張は、裁判官により、否定されました。第67条の文言は、明確で、あいまいなところはなく、また、当事者が今直面している状況に対処するような追加の文言を含めることも、当事者は自由だったからです。出訴制限は、その制限期間が経過する時に請求が了知されていなかったとしても、適用されます。

第1の問題点について、全ての当事者に反する形で判示した後、裁判所は、1996年仲裁法第12条に基づき、仲裁の開始の時間的制限の延期が認められるべきか否かについて、検討しました。

第12条第3項は、延長は、裁判所が以下の点を認めた場合にのみ、認められると規定しています。

  1. 「状況が、当該条項を合意した際に当事者が合理的に有するであろう考慮の外にあり、かつ、時間的制限を延長することが正当であること、又は
  2. 一方当事者の行動により、他方当事者を当該条項に厳格に拘束させることが不適切であるといえること。」

 

これらの要件を検討するにおいて、裁判官は、SOS Corporation Alimentaria SA & Anor 対Inerco Trade SA事件([2010] EWHC 162 (Comm))における、第12条に関するHamblen裁判官の見解を採用しました。本件での裁判官は、裁判所がまず取るべき立場は、出訴制限を受ける側の当事者が直面する状況が、「異常ではない」、「ありえなくはない」又は「発生しがちである」といえる場合には、請求は、出訴制限を受けるべきである、と判示しました。

また、本件での裁判官は、P社が、出訴制限の期間の最終日の営業終了後に請求を受けたことにより、傭船契約のチェーンに従い各々が請求を行うことは全て、期限後となってしまい、これは、「異常ではない」又は「ありえなくはない」状況とはいえない。従って、裁判所は、当事者が「迅速に、かつ、商業上、適切に」行動したかという点に基づき、各々の当事者の行動を検討し、各々のケースにおいて、延長を認めることが正当か否かを検討することとなりました。

P社に関しては、そのオペレーション部が11月17日に請求に気づいたものの、それを法務部に11月25日になるまで伝えず、Q社に対して11月25日になるまで仲裁を提起しなかったことを考えると、P社は、迅速に、かつ、商業上適切に行動しなかった、と判示されました。従って、期限の延長は認められず、P社の請求は、出訴制限を受けました。

仲裁通知がR社に対し直接送達された11月30日まで期限が延長されるべきであるとするQ社の申立については、裁判所は、「2016年11月17日に送付された通知を受けうるR社の代理人の権限に関する主張の適否に関わらず、通知はR社により受領され、2016年11月18日に読まれている。」と判示しました。従って、Q社は、迅速に行動したものと認められ、11月30日までの延期が認められました。

R社の申立については、裁判官は、R社がその代理人は仲裁通知を有効に受領することはできないと主張したとしても、R社は、11月28日まで、弁護士を選任せず、また、12月1日までS社に対して仲裁を開始していない、と判示しました。裁判所は、11月17日以降の遅延は、第12条において、迅速に行動しなかったことを示している、と考えました。裁判所は、R社は、11月22日に、すなわち、通知後3営業日以内に、S社に対して請求を通知し、仲裁を開始すべきであったことを示唆しました。

コメント

本件は、当事者が任意で合意した出訴制限の条項について、厳格に解釈されることを強く、再認識させるものです。裁判官は、当事者は、直面している状況に対処するための追加文言を、傭船契約を締結する際に自由に加筆することができた、と判示しました。傭船者の弁護士の提案する例としては、より長い期間を規定することや、求償請求については、出訴制限を明示的に延長するヘーグ・ヴィスビー・ルール第3条第6項修正条項と同様の規定を挿入することです。裁判官は、「第67条に合意することによるこれらの商業上の利点を選択することにより、当事者は、期間内に有効に受領した請求を、13か月以内に有効に移転できないかもしれないというリスクを負うものである」と付記しています。

メンバーにおかれましては、請求の通知が期限後に送達されたとしても、行動が「迅速で、かつ、商業上、適切な」ものであった場合には、裁判所に対する期間延長の申立が認められる場合がありうることは、留意する価値はあるものです。本件では、裁判所は、通知が有効になされたかという点に係る主張は、好意的には受け取られず、当事者が一度、請求に気づいた場合には、それが有効に通知されたかどうかに問わず、傭船契約のチェーン上の次の当事者に対して、3営業日以内に通知するべきことを示唆しています。

以上

和訳: 田中庸介 (弁護士法人 田中法律事務所 代表社員弁護士)