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Date
12 December 2018 12/12/2018

Bosphorus Queen Shipping Ltd Corp v Rajavartiolaitos (The "Bosphorus Queen") - Case C-15/17, Court of Justice of the European Union, 11 July 2018

背景

Bosphorus Queen号(「本船」)は、パナマ籍の乾貨物船です。フィンランドの国境管理局(Border Protection Authority)によれば、本船は、2011年7月11日、フィンランドのEEZを通過中に、油を流出しました。油の流出は、MARPOL条約では特別の地域とされているバルティック海において、フィンランドの沿岸から約25から30キロメーターの、EEZの境界付近で、なされました。油は、約10メーターの幅で、帯状に広がりました。流出した油は、沿岸に到着したものと認められず、また、損害を発生させたものとは認められず、除去手段はとられませんでした。

国境警備局は、本件の油の流出により、フィンランドの沿岸、又は、その関係する利益に対して、若しくは、領海内の、又は、EEZ内の資源に対して、甚大な損害、又は、その恐れを生じさせたとして、本船の船主に対し、17,112ユーロの罰金を科しました。

本船の船主は、フィンランドの裁判所に対して、担保の提供、及び、罰金を科すことに関連する決定の無効を求めて、提訴しました。

2012年1月30日の判決において、第1審裁判所は、Bosphorus Queen号は、少なくとも900リットルの油を流出したことが認められること、及び、環境への影響の評価を検討し、海上輸送に係る環境保全に関するフィンランド法の観点からすれば、本件の油の流出は、甚大な損害の恐れを生じさせた、と判示しました。これらの根拠に基づき、海事裁判所は、船主の訴えを棄却しました。控訴に続き、最高裁判所は、欧州裁判所(「ECJ」)に対し、関連する条項の正しい解釈を付託しました。

判決

付託する裁判所からの疑問に答えるため、ECJは、1982年Montego Bay条約(「UNCLOS」)、Marpol条約73/78、及び、1969年公海における干渉に関する条約、及び、これらのEU法との関係を検討しました。

法的規定

1969年公海における干渉に関する条約

第1条第1項によれば、本条約の締約国は、大きな危害のある結果が生じることが合理的に予想されるような、海上事故、又は、それに関連する排出(discharge)に引き続く、海上の油濁、又は、その恐れから生じる、その沿岸、又は、その関係する利益に対する、重大な、又は、切迫した危険を防ぎ、最小化し、又は、除去するために必要な手段を、公海において、取ることができる、とされています。

また、第2条第4項では、「関係する利益」とは、海上事故により直接、影響を受け、又は、脅威を受ける、沿岸国の利害をいい、例えば、(a)海上沿岸地域、港湾、又は、河口における活動であり、漁業活動を含む個人の生活の基本的な手段を構成するもの、(b)関係する地域の観光事業、(c)沿岸地域の住民の健康やその地域の良好さであり、海の資源や生物の保護を含むもの、などをいう、とされています。

UNCLOS

UNCLOS第220条第3項から第6項は、船舶によるEEZ内での汚染に関する国際的ルール、又は、基準に違反した船舶に対する措置を沿岸国が取る際に従うべき管轄に関するルールを規定しています。

EU指令2005/35

本指令の第7条は、「通過する船舶に関する沿岸国による措置の執行」と題され、第2項では、以下のとおり、規定されています。

「第3条第1項(b)又は(d)に規定される区域を航行する船舶が、第3条第1項(d)に規定される区域において、締約国の沿岸、又は、その関係する利益、若しくは、第3条第1項(b)又は(d)に規定する区域の資源に対し、大きな損害、又は、その恐れを生じさせる排出をもたらすような侵害行為を犯したものと認められる明確な、客観的な証拠が存する場合、当該締約国は、Montego Bay条約第12章第7条に従い、また、証拠により認められる限度において、その国内法に従い、船舶の差押を含む手続を開始するために、関連する機関に対して、申立てを行うことができる。」

欧州最高裁判所は、以下のとおり、判示しました。

1.EUは、UNCLOSの締約国であるから、当裁判所は、その条約を解釈する管轄権を有し、また、EUは締約国ではないものの、その加盟国の全てがMARPOL条約の締約国であるから、同条約の観点からも、当裁判所がUNCLOSの解釈をなさなければならない。

2.UNCLOS第220条第6項、及び、上記EU指令第7条第2項にいう「明確で客観的な証拠」とは、違反がなされたことのみならず、違反の結果についても、参照されなければならない。

3.UNCLOS第220条第6項、及び、上記EU指令第7条第2項にいう「沿岸、及び、関係する利益」との文言は、干渉に関する条約第1条第2項、及び、第2項第4項にいう「沿岸、及び、関係する利益」と同一の意義を有しなければならない。第220条第6項は、また、沿岸国の領海の非生態の資源、及び、EEZ内のいかなる資源に対しても適用される。

4.UNCLOS第220条第6項、及び、上記EU指令第7条第2項によれば、沿岸国の海域、又は、EEZ内の資源は、収穫物となる種だけでなく、それらに関連する種、及び、それらに依存する種であって、例えば、収穫物となる種のえさとなるような動物、植物の種をも含む。

5.上記EU指令第220条第6項に基づく違反の結果を評価する際、UNCLOS220条第5項にいう「重要な住民」とのコンセプトを考慮する必要はない。

6.UNCLOS第220条第6項、又は、上記EU指令第7条第2項の違反の結果、又は、沿岸国による措置が認められるか否かを評価するためには、沿岸国の様々な資源や関係する利益に対する排出により発生しうる損害の性質、及び、程度を確定することで十分である。物質の性質、及び、その速度は、重要な要素である。

7.バルティック海の持つ特別な地理的、環境的、また、感応性は、その違反の定義、及び、分類に関して、UNCLOS第220条第6項、及び、上記EU指令第7条第2項の適用について、直接の影響を持つが、沿岸国の資源や関係する利益に対する損害の評価については、当然に、影響力を有するものではない。

8.締約国は、上記EU指令第7条第2項に規定する以上の厳しい措置を取ることはできないが、UNCLOS第220条第6項に規定する措置に相当する措置を取ることができる。

コメント

欧州裁判所の決定は、沿岸国が、そのEEZについて、その管轄に服する利益について、管轄権を主張することのできる状況に関し、また、通過する船舶に対する措置の執行を行うことを正当化する証拠に関し、有益な指針を提供しています。

以上

和訳: 田中庸介 (弁護士法人 田中法律事務所 代表社員弁護士)