Engelhart CTP (US) LLC v. Lloyd’s Syndicate 1221 and Others [2018] EWHC 900 (Comm)
事実
商事裁判所は、オール・リスクの貨物保険約款との関連で、経済的損失に関する問題を検討しました。「海上貨物保管保険」と記された約款は、原告である被保険者と、被告である保険者との間で締結され、一定の金属を含む、貨物の範囲については、オープン・カバーの条件で運営されていました。
原告は、銅のインゴットを買い、同日、売却しました。しかしながら、積み替えの際、いくつかのコンテナには、わずかな鉱滓しか存していないことが判明しました。約款の解釈の決定のため、銅は少しも船積されず、原告は、善意で、詐欺的な船荷証券その他の船積書類に対して支払いをなし、それらを取得したものであることが前提とされました。原告は、オール・リスクの海上貨物保険約款に基づき、保険求償を求めましたが、数名の保険者は、当該損失は約款のカバーの範囲に含まれないことを根拠に、これを拒否しました。
約款には、石油製品や、コーヒー、砂糖、金属や植物油を含む、付保される商品について、一定の保険条件を規定する様々な条項や、「別異の宣言がなされない限り、最も広範なカバーが適用されることが認識され、かつ、合意された。」とする広範な条項が規定されていました。
約款はさらに、特定の条項、特に、外観上損なわれていない封印の有無にかかわらず、中身の不足をカバーする「コンテナ条項」、船荷証券や倉庫預り証などの書面が詐欺的であった場合に、それを受け入れたことによる貨物に対する物理的な損失又は損害をカバーする「詐欺条項」も規定していました。
判決
原告は、当該約款は、評価上の損失についてもカバーを拡張している、と主張しました。原告はさらに、詐欺的な船荷証券を受け入れたことから生じた損失を回復するため、上記の条項に該当することを試みました。
裁判所は、原告の主張を拒否し、当該損失は約款によってはカバーされない、と判示しました。裁判官は、過去の判例によれば、まず最初の問題として、オール・リスクの海上貨物保険約款の目的は、財産に対する損失又は損害をカバーするものでなければならない、と判示しました。裁判官は、さらに、存在する貨物の物理的な損失と、存在しない貨物の評価上の損失との違いに着目しました。裁判官は、「不足」は通常の意味を持ち、元々、貨物が存在しない場合には適用されない、と判示しました。
裁判所は、原告の主張する損失が、物理的に貨物に適用されるとの期待の下に、詐欺的な書面を受け入れたことによる、経済的な損失であることは、認めました。オール・リスクの海上貨物保険約款は、一般に、貨物に対する物理的な損失又は損害から生じる損失のみをカバーするものと解釈されているので、広範な意図を示す場合には明確な文言が必要です。
裁判官は、貨物に対する物理的な損失又は損害というのは、平易な文言であり、自然な意味が付与されるべきである、と判示しました。存在しない貨物に関し、詐欺的な船荷証券を受け入れたことから生じる経済的損失までは、包含していません。
コメント
本判決は、オール・リスクの保険約款は、付保された物の物理的な損失又は損害のみをカバーし、明確な文言がない限り、経済的、又は、評価上の損失までには及ばない、という、明確な原則を再確認したものです。
裁判所の「物理的な損失」についての狭い解釈は、興味深いです。裁判官は、被保険者は、詐欺的な記述を含み、貨物を一切、受領していない書面に対して支払いをなしたのであるから、物理的な損失を被ったものである、との被保険者の主張に同意しませんでした。従いまして、このルールは、詐欺的な書類に限定されるものではなく、測定不足その他の書面作成上の非難しえないミスに対しても、適用されるであろう。保険条件としてのオープン・クローズ中の「最も広範なカバーが適用される。」との文言は、運営上の条件や、貨物の特定の条項について、広範な条項が適用されることのみを意味し、当該約款が、協会の定めるオール・リスク約款よりも広範であるとしても、特定の条項が評価上の損失や、架空の貨物に対するカバーを提供するものでもありません。
以上
和訳: 田中庸介 (弁護士法人 田中法律事務所 代表社員弁護士)