Dainford Navigation Inc v PDVSA Petroleo SA (The "Moscow Stars") QBD (Comm Ct) (Males J) [2017] EWHC 2150 (Comm)
事実
2016年10月、ベネズエラのPuerto La Cruzにて、クルード・オイルの貨物が本船に船積されました。本船は、原告たる船主と被告たる傭船者との間の定期傭船契約に基づき、貨物を荷揚するために、バハマのFreeportに向かうよう、指示されました。船主に支払われるべき傭船料450万米ドルの滞納がありました。
傭船者が繰り返し、傭船料を支払わないので、船主は、貨物に対する先取特権(lien)を行使する旨の通知を行いました。その後、本船は、傭船者の指示により、キュラソー島(Curacao)のBullen Bayに航行し、裁判期日まで、そこに留まりました。再度、船主から、先取特権を行使する旨の通知が送られました。傭船者は、船主に対し、2016年12月と2017年1月に、傭船料の一部を支払いましたが、残存未払額を弁済するには不十分なものでした。その結果、未払傭船料や、その他の、傭船契約に基づく未払額、又は、損害賠償額としての債務、合計770万米ドルに関して、ロンドンでの仲裁が開始されました。
2016年12月、船主は、仲裁廷に対して、貨物の売却を行う命令を裁判所に申し立てることの許可を求め、これを得ました。船主は、また、キュラソー島の裁判所の許可により、貨物を差押えました。裁判期日において、船主、及び、そのグループ内の11の会社による他の傭船契約に基づく請求に基づき、貨物は差押えられました。
2017年5月5日、船主は、英国高等法院に対して、1996年仲裁法第44条(2)(d)に基づき、本船上の貨物を売却する命令を申立てました。
船主は、売却手続に移行している貨物に対する船主及び他の11の会社の担保権がある中で、本船を返船するためには、貨物を売却することが必要である、と主張しました。
傭船者は、貨物は、仲裁法第44条(2)(d)にいう手続の対象ではないこと、また、貨物を売却することは、民事訴訟手続法25条の範囲内でのみ、行使することができ、貨物が腐りやすいこと、または、その他の有効な理由がない場合には、同条の要件は満たされないことを根拠として、売却手続に異議を申出ました。
判決
裁判所は、傭船者の全ての主張を退け、貨物の売却を命じました。
1996年仲裁法第44条(2)については、契約上の先取特権が、仲裁において提起されている請求権の担保として、被告の資産に対して行使されている場合には、貨物と仲裁手続との間に十分な関連性を認めることができる、と判示しました。
本件において命令を下すについて裁判所がその裁量を行使すべきか否かという点については、船主が申立てを行うのに遅延したことについて形式的な批判を示しながらも、以下の理由に基づき、裁判所は、貨物の売却を命じる適切な理由が認められる、と決定しました。
- 貨物は9か月以上も本船上にあり、売却の命令がなければ、さらに数か月以上もそのままであろうこと。
- 船主は、傭船料を受け取っていないが、日常の管理コストを今後も支払わなければならないこと。
- 本船は、予定された乾ドックに行くためには、貨物のない状態となる必要があること。
- 貨物を売却しても傭船者の利益を害することはほとんどないか、全くないこと。貨物は、全ての当事者の利益のため、金銭に変えられること。
- 倉庫に貨物を荷揚するなどの、他の可能な方法がないこと。
コメント
Moscow Stars号事件は、商事裁判所に提起された、最初の、また、争いのある、貨物売却の申立でした。本判決は、傭船契約上の先取特権が行使されている場合に、貨物が、いかなる場合に、1996年仲裁法第44条に基づく「手続の対象」と判断されるか、について、明確に判示した点で、興味深いものです。裁判所が、独立した救済策として、独自の売却命令を下すためには、貨物と、仲裁手続との間に、十分な関連性があることが必要です。本件では、本件自体の事実関係に基づき、この要件が満たされる、と判示しました。
他の興味深い点は、先取特権で担保された請求に関して、裁判所は、売却命令を認めながら、本判決では、裁判所は、他の11社の海外の法に基づく貨物の差押えも、売却手続に移行することにより、保護されるべきである、と判示した点です。
上記の事情にかかわらず、原告としては、契約上の先取特権を貨物に対して行使する前に、それを誰が所有しているかを確定することが重要です。適切な条件の下、売却命令が認められるためには、債務者の資産が先取特権の対象でなければなりません。
最後に、メンバーにおかれては、Males裁判官は、仲裁の当事者ではない第三者が貨物を所有していた場合にどのような結果となるかについては、本件では関係ないことですから、言及していない点に、ご留意されるべきでしょう。従いまして、上記のような場合に裁判所が売却命令を下すか否かについては、依然、不明確であるといえます。