Skip to content
Date
26 July 2019 26/07/2019

事実

貨物関係者である原告は、「Elin」号の船主たる被告に対し、荒天の海上にて甲板積み貨物を失った後、訴訟を提起しました。その貨物は、譲渡禁止の船荷証券により、タイからアルジェリアに運送されていました。その船荷証券には、次の記載がありました。

1 1頁目:「運送人は、甲板積み貨物に関し、その損失、又は、損害について、いかなるものであろうと、責任を負わない。」

2 2頁目:添付のリストに示された70包が「荷送人、又は、荷受人のリスクにおいて、船積され、運送人、又は、船主、又は、本船は、いかなるものであろうと、その損失、又は、損害について、責任を負わない。」

貨物関係者は、甲板積み貨物の損失は、船主の注意義務違反、又は、船荷証券により証される契約違反に基づき発生したものとして、契約違反、不法行為、及び、寄託(bailment)を根拠として、請求を提起しました。特に、以下の主張がなされました。

  • 船主は、船積された時と同様の良好な状態で甲板積み貨物を引渡すことを行わなかった。

  • 船主は、甲板積み貨物を適切、かつ、注意深く、船積し、積付し、運送し、管理し、また、引渡すことを行わなかった。
  • 船主は、甲板積み貨物を、航海に堪えるように固縛、又は、積付ることを適切に行わなかった。

  • 船主は、航海の開始時に、本船を堪航性あるものとするについての注意を払わず、特に、甲板積み貨物を受領し、運送し、保管するに適した状態に、本船、又は、船倉を保持することを行わなかった。

 

当事者間では、次の点には争いはありませんでした。

  • ヘーグ・ルール、又は、ヘーグ・ヴィスビー・ルールは、船荷証券上甲板積みされるものと記載された甲板積み貨物については、それが真に甲板に積まれた場合、適用されない。

  • 従って、甲板積み貨物に関する船主の責任は、船荷証券、及び、コモンローにより、認められる。

  • コモンローにおいては、本船は、航海の前、及び、その開始時点において、堪航性を有することが黙示的に規定され、堪航性を有することの保証は、「絶対的な」保証である、とされている。船主は、目的地において、貨物を船上で受け取った時と同様の良好な状態で引渡すことについて、厳格な責任を負う、という点は、主張可能である。

 

船主は、その責任を否定し、上記に引用した船荷証券中の2つの条項を引用しました。船主は、甲板積み貨物に関する責任は、過失、及び、不堪航に基づく責任を含め、船荷証券中の明示的な文言により、免除されている、と主張しました。

貨物関係者は、堪航性に関する黙示的な義務は、基本的な、優先的なものであり、免責条項は、明確に規定されていない限り、それに影響しない、と主張しました。

高等法院(訳者注:ロンドンにおける第1審裁判所)は、「船荷証券の適切な解釈によれば、被告は、不堪航、又は、被告の過失により生じた損失、又は、損害を含め、甲板積みにより運送された貨物に対する損失、又は、損害について、責任を負わないか否か」という点の判断を求められました。

判決

裁判所は、船荷証券の文言の解釈として、先例にこだわらない場合、免責の文言は、過失、及び、不堪航に基づく責任を免除するに有効である、と判示しました。免責の文言は、明確である、とされました。船主は、甲板において運送された貨物について、何により生じた責任であれ、責任を負わない、とされました。より広範な免責文言を考えることも困難である、とされました。その免責は、いかなる、全ての原因をカバーしており、過失、又は、不堪航を除外することが正当化できない、とされました。

裁判所は、さらに、

(a) 船荷証券において、貨物が甲板において運送されることが規定されているものの、事実、甲板下において運送されていた場合、又は、

(b) 船荷証券においては、貨物の積載場所について規定がないものの、事実、貨物が甲板において運送されていた場合には、

ヘーグ・ルール、又は、ヘーグ・ヴィスビー・ルールが適用されることを、当事者に再認識させました。従って、免責条項は、船荷証券において、貨物が甲板において運送されることが規定され、かつ、実際に、貨物が甲板に積載され、運送された場合にのみ、有効となります。

コメント

本決定は、メンバー各氏においては、喜ばしいものでしょう。シンガポール(Sunlight Mercantile Pte Ltd対Ever Lucky Shipping Co Ltd事件([2004] 2 Lloyd’s Rep 174)参照)や、カナダ(Belships対Canadian Forest Products Ltd事件([1999] AMC 2606)参照)など、特定の国においては、運送には、同様の文言により、不堪航、及び、過失に基づく責任を回避できないものと判示されていましたが、高等法院は、英国法においては、運送人は、甲板積み貨物の損失、又は、損害について、それが「いかにして発生したものであろうと(however arising)」、又は、同様の免責文言により、それが不堪航、及び、過失により生じたものであっても、責任を回避することができることを、再確認しました。 

メンバー各氏におかれましては、本件が論じられている「甲板積み貨物の運送‐誰がリスクを負うか」2019年5月1日付の論稿もまた、ご参照下さい。https://www.ukpandi.com/knowledge-publications/article/carrying-deck-cargo-at-whose-risk-148391/

 

以上

和訳: 田中庸介 (弁護士法人 田中法律事務所 代表社員弁護士)