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Case Study: A falling incident from a ladder
Hiroshi Sekine
Hiroshi Sekine
Senior Loss Prevention Director
Date
27 January 2022 27/01/2022

昨年、9月にAMSA(Australia Maritime Safety Agent)より、また、10月に香港Marine Departmentよりあいついで、はしごからの落下事故に関する通達が発行されました。船内でははしごを使った高所作業、あるいは、パイロットラダーによるパイロットや関係者の乗下船が行われていますが、これら作業はいずれも大きな事故につながる恐れのある作業となります。

従ってはしごを使用して行う作業には、リスクマネジメントの実施を含め、訓練、作業の習熟などが必要です。

本稿では、上記2つの通達の概要及び、それぞれで指摘されている転落防止に関する予防策を紹介します。また、さらに過去に発生した転落事故事例を紹介し、同様事故再発防止の対策を検討したいと思います。

AMSA Marine notice 06/2021 (2021年9月) (1)

パイロットラダーからの落下による死傷事故

概要 

2021年8月、AMSAは、乗組員がばら積み貨物船のパイロットラダーを使って、乗組員移送用ボートに乗船しているときに海面に落ち、死亡したという通知を受け取りました。 その日は、乗組員は下船し家に帰る途中でした。

リスク管理

パイロットラダーを使用して船舶に乗り降りすることは、リスクの高い活動です。 安全なアクセスを確保できないと致命的な結果となる可能性があります。

パイロットラダーまたはその他の手段による人の安全な移動に関するリスク評価は、船舶の安全管理システム(SMS)に規定する必要があります。

パイロットラダー及び関連機器は、国際規格(SOLAS V / 23)に準拠しなければならず、また承認され適切に保守しなければなりません。

人の移動にパイロットラダーを使用する場合のリスクを検討するときは、少なくとも次の点に注意する必要があります。

  • パイロットラダーを使用する人々の経験と能力
  • パイロットラダーを使用することの必要性
  • 海象及び気象状態
  • パイロットラダーを使って人々を安全に移動させる場合の、プラットフォームとして機能する小型ボートまたは他の船舶の能力
  • 転落防止策
  • パイロットラダーから人が転落した場合の緊急対応
  • ヘリコプターなど、状況に応じてリスクが低い他の移動手段の使用

 

Hong Kong Merchant Shipping Information Note 47/2021 (2021年10月18日) (2)

垂直はしごを降りることにより発生した致命的な転落事故

事故詳細

香港籍鉱石船が、中国のCao Fei Dianから積地のオーストラリア・ポートヘッドランド向け航行中でした。航海中、2等機関士は修理チームとともに3番貨物倉前部隔壁のアクセストランクからダクトキールに行き、修理作業を行いました。降りていく途中で、2等機関士は、彼の命綱が垂直はしごに絡まっているのに気づきました。この命綱はアクセストランクの外側にいる機関長によって保持されていました。落下防止装置を装備せずに、彼は自分の締め綱を命綱から切り離そうとしましたが、突然、垂直はしごの3mの高さからストリンガーデッキに落下しました。

救助チームが直ちに船上で編成されました。 1時間以上経過した後、意識のある状態にあった2等機関士は、アクセストランクから担架で運ばれ、遠隔医療支援サービスの医療アドバイスを受けて、応急処置のために船の病室に移動しました。約6時間後、2等機関士はヘリコプターで台湾の高雄にある最寄りの港に緊急治療のために移送されましたが、残念ながら、彼は到着後すぐに病院で死亡が確認されました。

調査の結果、2等機関士は、落下防止措置せずに、はしごから命綱を解くために垂直はしごの上で作業をするというリスクを、過小評価していたということが明らかになりました。

作業準備及びチームメンバーの協力体制が、本事故発生を回避するには不十分でした。調査により、閉鎖区画救助チームが効果的に訓練されていないことも確認されました。 船長は、早い段階でヘリコプター救助サービスを要請できませんでした。 また、閉鎖区画への入域に関する訓練(閉鎖区画外で実施)は、適切な方法で実施されていませんでした。

事故の教訓

将来同様の事故が再発しないように、船長、職員、乗組員は次のことを行う必要があります。

(a) 乗組員のための安全作業実施コードに従って、はしごを昇ることに対する安全意識と高所作業での安全性を高める。

(b) 閉鎖区画への立ち入りと救助訓練および教育を強化する。

(c) 乗船中の病人または負傷者の状態に基づいた救援の必要性の判断を強化するとともに、遠隔医療支援サービス(TMAS :Telemedical Assistance Service)との効果的なコミュニケーション、及び彼らの指示の受け入れを強化する。

事例 : ばら積み船Atlantic Princess のパイロットラダーからの転落(3)

概要

2013年7月3日、会社の担当者がばら積み貨物船Atlantic Princessのパイロットラダーによって乗船中、パイロットボートの甲板に転落しました。当時、本船は南オーストラリア州Whyalla沖に錨泊しており、バージから鉄鉱石を積載していました。負傷した男性は直ちに応急処置を受け、地元の病院に運ばれましたが、その日遅くその怪我により亡くなりました。

経緯

2013年6月17日、ケープサイズのばら積み貨物船Atlantic Princessが鉄鉱石を積載するため、南オーストラリア州のSpencer湾の、Whyalla近くの沖合積載錨地に錨泊しました。

7月3日1040時、パイロットボートSwitcherはAtlantic Princesに到着し、船尾を通過して左舷のコンビネーションラダーに近づきました。パイロットボートの船長は、本船に右舷付けにして、パイロットラダーの下にボートの前部甲板が来るように操縦しました。

ボートの甲板員は、パイロットラダー底部がボートの甲板からラダーステップで約2段上にあることを確認しましが、これでは、高すぎて昇れないと感じました。彼は、ラダーを下げるために、パイロットラダーの約17m上にいる乗組員に身振りで示しました。

この頃、2人の本船担当者がパイロットボートのキャビン内から前甲板に移動しました。Atlantic Princessの甲板で乗組員を監督していた甲板長は、パイロットボートの甲板員の身振りを確認しました。その後、甲板長は乗組員に固縛装置を緩め、ラダーを下げるように指示しました。

本船の乗組員がラダーの高さを調整している間、本船担当者はラダーの底部に近づき、彼はボートの甲板員と短い話し合いをした後、ラダーを昇り始めました。 彼がラダーを昇っていることは、Atlantic Princessの乗組員には伝えられておらず、乗組員はラダーを下げる準備をしていました。

本船担当者は個人用の救命胴衣を着用しており、荷物は持っていませんでした。彼はゆっくりと着実に登り、一度に1つのラダーステップを昇り、両手で握っていました。ラダーを昇っていくとすぐに、ラダーを固定するように乗組員に指示していた甲板長に目撃されました。本船担当者がラダーを昇っている間、ラダーは安定しているように見え、その間ラダーは動くようには見えませでした。

彼は、ラダーを約7m昇った時、自分の頭がギャングウエーのプラットフォームとほぼ一致した状態にあり、そこで止まりました。彼は右腕で合図を送り、次に両手でラダーをつかみました。彼はその位置に約4〜5秒間留まり、ラダーのほうに身を引きました。そうしている間、彼は本船甲板上の乗組員に助けを求めて呼びかけました。

パイロットラダーの上部で待機していた甲板員は、助けの呼びかけを聞いて、ギャングウエーの上部へ走りました。 1050時甲板員がギャングウエーを降りようとした時、本船担当者がパイロットラダーから落ち、パイロットボートSwitcherの前甲板の中央に転落したのを見ました。

パイロットボートの乗組員は直ちに落下者の容体を確認し、1053時病院へ搬送するため、ボートは本船を出発しました。1120時にWhyallaに到着し、当地の病院で治療を受けましたが、残念ながら彼は亡くなりました。

 

 

左舷コンビネーションラダー概要図 (Source: South Australia Police with annotations by ATSB)

落下の直接原因

彼が本船の甲板に呼びかけたという事実は、彼がパイロットラダーを昇るのに苦労していたことを示しています。

垂直ラダーを7m昇るのに必要な肉体的な活動は、彼を疲れ果てさせ、ラダーを握りつづけることを、維持できなくなった可能性があります。

ATSB(Australia Transport Safety Bureau)による調査

ATSBは、Atlantic Princessのパイロットラダーが関連する国際要件に従って装備されていること、しかし人員の乗下船については、リスク評価が行われてなかったことを確認しました。 調査では、会社の安全管理システ(SMS)において、経験の浅い人員がパイロットラダーを使用して乗下船する場合、必要とされる行動に関するガイダンスが含まれていないこともわかりました。

さらに、積み込みバージには、バージと本船の間の安全なアクセス手段を確保するために使用できる施設がなく、バージ運航者の手順書には、人員の移動が禁止されていました。

また調査では、パイロットボートオペレーターの安全管理システムの内容と適用に関連する安全上の問題も指摘されました。

再発防止策

可能な限りパイロット以外の人の移動には、ヘリコプターを使用する必要があることを示す社内安全指示書を管理会社は発行しました。 これが不可能な場合は、パイロットラダーを昇る際には安全ベルトを使用する必要があります。 これらの要件は、事前に船舶代理店に通知されます。

パイロットボートオペレーターの安全管理システム(SMS)は監査が行なわれ、同社はSMSとその適用の改善に取り組んでいます。 同社の人員移動手順書も更新されました。

安全メッセージ

この事故は、次の事実を明確にするものです。すなわち、パイロットはパイロットラダーを使用する能力があるかもしれませんが、他の人達がパイロットラダーを使って昇り降りするのに熟練している、またはそうするのに適していると想定すべきではないということです。

参考

  1. MSA Marine notice 06/2021
    https://www.amsa.gov.au/about/regulations-and-standards/marine-notice-062021-fatal-accidents-falling-pilot-ladders-ships
  2. Hong Kong Merchant Shipping Information Note 47/2021
    https://www.mardep.gov.hk/en/msnote/pdf/msin2147.pdf
  3. ATSB Transport Safety ReportMarine Occurrence Investigation 300-MO-2013-007
    https://www.atsb.gov.au/media/4891508/mo-2013-007-final.pdf