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Date
3 May 2023 03/05/2023

「全員で総力を挙げよ!」。油濁は、保険会社や用船者、船主、米国沿岸警備隊、地方および州当局、そして土地所有者や環境保護団体などの様々な当事者の関与が求められる事態です。そして、これらすべての関係者は1990年の油濁法(OPA)によって結びついています。

OPA!  

OPAという言葉にはギリシャ語で「勢いよく動く」との意味があります。同じように、米国ではOPAの規定に従って関係者全員が勢いよく取り掛かることで、事態は動き始めます。

1989年のExxon Valdez号の油濁事故に対応する形でOPAが制定されましたが、その適用範囲は石油タンカーからの流出に限った話ではありません。さらに幅広く、貯蔵タンクや供給網そして廃井戸を含む敷地など、排出した油が表流水へ流入する恐れのあるものが対象となっています。

OPA制定の際に議会は、既存の連邦法および州法の定める汚染除去や被害救済策が不十分であること、高額な清掃活動に多額の税金補助を要していること、そして被害者の復旧に大きな負担を課していることを指摘しました。そして、OPAはこれら法律の不備を解決することを目的としていました。

また、OPAに基づいて責任を課すことは決して難しいことではありません。一般的に、原告が示すべきこととして、(1) 被告が責任を負うべき関係者に該当し、(2) 本船もしくは設備に責任を持ち、(3) そこから油の流出が確認されているか流出する可能性が非常に高い状況であり、(4) 可航水域への流出、(5) そして結果的に除去費用および被害が発生したことが挙げられます。

責任の所在

OPAの下では、「責任を負う当事者」として汚染者が費用を負担する必要があります。そして、米国の可航水域への油の流出もしくはその甚大な恐れによって発生したすべての除去費用や損害に対する法的責任を負い、これは無過失責任および連帯責任となっています。また、船舶については、その所有や運行管理、そして裸用船に関わる誰しもが責任を負う当事者に該当します。1

責任を負う当事者に対して請求可能な損害賠償は巨額で多岐にわたります。大まかにいえば、天然資源への損害や物的財産の損壊による経済的損失、使用不能損害、逸失利益、そして当然のことながら清掃費用が請求可能だと言えるでしょう。

あなたの責任制限は?

特定の状況下では、the Oil Spill Liability Trust Fund (OSLTF)が責任者に対して、汚染除去と損害賠償にかかる費用のうち補填されていないものについて補償する場合があります。ただし、責任を負う当事者はOPAに基づく完全防御あるいは責任制限の権利を有することを示す必要があります。具体的には、合衆国法典33編第2708条(a)に次のように規定されています:

油の流出もしくはその高い危険性を有する船舶あるいは設備について責任を負う者は、以下のことを証明した場合に限り、本編2713条に基づく除去費用および損害賠償について請求する権利を有する―

  1. 責任を負う者は本編2703条に基づき、責任について抗弁権を有する場合;あるいは、
  2. 責任を負う者は本編2704条に基づき、責任制限の権利を有する場合

 

OSLTFに対する請求の裁定においては、National Pollution Funds Center (NPFC)が事実関係を精査する立場にあります。そのうえで、NPFCは判断を下す際にすべての証拠とその証明力を比較検討します。 相反する証拠が存在する場合、どの証拠が信ぴょう性の高いものであり重視されるべきかを軸に判断し、証拠のもつ優劣によって事実認定を行います。

請求を裁定する際、NPFCは合衆国法典5編555条に沿った略式手続きを踏みます。この法規定にはNPFCがその決断をするに至った根拠を簡潔に提示することが定められています。

上述の通り、OSLTFによる除去費用や損害賠償にかかる費用の補填を受けるためには、責任を負う関係者は抗弁あるいは責任制限が適用されることを証明しなければなりません。OSLTFによる補填を受ける権利を立証できない場合や確固たる証拠の優越による論拠を示せない場合、NPFCはその請求を棄却します。

制限額は船種によって異なり、物価指数の上昇に対応して定期的に修正されます。最近のものとして、2022年12月に議会が責任制限額の引き上げを承認しました。2023年3月23日よりこれら新たな額が適用され、詳細は下記リンクより確認できます:https://www.federalregister.gov/documents/2022/12/23/2022-27750/consumer-price-index-adjustments-of-oil-pollution-act-of-1990-limits-of-liability-vessels-deepwater

 

関係者の不適切な対応

特定の条件下では、責任を負う関係者は汚染被害のすべてに対する責任に晒されることになります。合衆国法典33編2704条(c)(2)によると、関係者が次のことを怠った場合は責任制限が適用されません:  

  1. 関係者が事故について知っていたあるいは知るに足る理由があり、法律で義務付けられている通りに事故を報告すること;
  2. 汚染除去作業に関して当局から要請される、すべての合理的な協力および援助を提供すること;あるいは
  3. 正当な理由がない限り、、本篇 1321 条(c)もしくは(e)あるいは公海法(合衆国法典33編1471条 以下参照)に基づいて発せられた命令を遵守すること 

 

また、事故が責任を負う関係者の故意、重過失、あるいは連邦規則違反に起因するものであった場合もOPA の責任制限は適用されません。

OPAにおいて、「重過失」と「故意」にはそれぞれ明確な違いがあることに留意しておくべきでしょう。

「重過失」は法律上定義されていないうえ、この用語の定義づけに関連して、責任制限の非適用を目的とした公式・非公式の規則策定にNPFCが関与しているわけでもありません。むしろ、NPFCはその行政上の決定に由来する定義を採用し、適用してきました。この点を考慮しながら、これらの用語は通常以下のように解釈されます:

重過失:過失とは、通常の注意力と慎重さを持つ人間がその状況下で行使するであろう程度のものを行使しなかったことを指す。その状況が明白かつ大きなリスクを示している場合、さらに高い注意力が必要となる。過失が「重大」となるのは、その状況下で払うべき注意から現状が逸脱している場合や僅かな注意さえ行使しなかった場合。

故意:ある行為のうち、被害につながるであろうことを知りながら意図的とったもの、あるいは起こりうる結果を認識しつつ行ったことが推測されるもの。

結局のところ、その行為が「重過失」もしくは「故意」によるものかどうかはNPFCの判断するところです。 

急拡大

汚染事故の発生後、責任を負う関係者は本船の事故対応計画(VRP)を直ちに発動させなければなりません。同様に、関係者は少なくとも以下の手順を踏む必要があります:

  • メンバーおよび本船の利益を守るために、現地のP&Iクラブコレスポンデントや弁護士の起用
  • 関連する政府機関(連邦/州/地方)に対して、適用法に基づいて義務付けられている通知がなされていることを確認
  • 物的証拠、文書、そして電子証拠の保存
  • 問題となっている油のサンプルを定期的に入手

 

さらに、油濁の程度と深刻さに応じて、責任者が考慮すべきその他の事項がいくつかあります:

  • 天然資源を専門とするコンサルタントの必要性
  • 環境配慮が必要な地域への影響の有無
  • 大気汚染専門家の必要性
  • 油濁が居住地区で発生しているかどうか
  • ITOPFの援助の必要性
  • メディアコンサルタントの必要性
  • 経済的側面への影響

 

    • 発電所への流入  
    • 工場冷却水への流入 
    • 港湾の閉鎖
    • 造船所及び修繕施設への影響
    • 他船舶の遅延や停留
    • 観光地への影響
    • 漁業関係者への影響

 

  • 機材の使用や人員派遣およびサービス提供者の動きを監視することによるコスト管理を担当する査定事務所や会計事務所の起用の検討
  • 少額請求の迅速な解決のために第三者請求を担当するハンドラーを起用すべきか検討

 

油濁への対応にはP&Iコレスポンデントとの緊密な連携が重要です。米国沿岸警備隊および地元当局は汚染除去への対応を監視します。そしてその対応が不十分であると認めた際には当局がその統括をとる場合があります。そしてこれらすべての要素が、OSLTFによる損害と賠償請求権の査定時に考慮されることになります。

有事への備え

油濁事故は大きく報道され、頭痛の種にもなるでしょう。OPAの要件は複雑で、包括的な対応計画が求められます。2 無過失責任と甚大な責任に直面する可能性があるなかでは、汚染事案に備えた計画を立てることが常に最適解だと言えます。適切な対応をさせていただくため、まずはクラブに連絡していただくことが重要です。それによってクラブはサーベイヤーや弁護士を現場へ派遣し、当局と連携するよう手配することができます。当局へ報告する際の要件や危機管理に関して弊クラブより助言させていただくことも可能です。また、各所との繋がりを用いて、汚染・環境問題への対応に適した組織を推薦させていただくことも可能です。結局のところ、問題の解決には人員が多いほうが好ましいのです。 


1 合衆国法典33編2701条に基づき、2010年12月31日以降にシングルハルタンカーで輸送した場合は、石油の所有者も責任を負う関係者に該当します。  

2 OPAの規定はこちらのリンクよりご覧になれます:https://www.govinfo.gov/app/details/USCODE-2011-title33/USCODE-2011-title33-chap40-subchapI-sec2702