2007年の難破物の除去に関するナイロビ国際条約(ナイロビ条約)
経緯
日本政府は、日本に寄港する船舶に対してP&I保険への加入を義務付けています。しかし、近年日本において、海難事故による燃料油などの流出または難破物が発生した際、保険会社が船舶所有者の保険契約違反を理由に保険金を支払わず、結果船舶所有者が処理費用を払わず油濁や難破物が放置され、処理を行った者への補償がなされない事例が発生しています。
このような被害者を保護するための措置として、2020年7月1日、日本は「2001年の燃料油による汚染損害についての民事責任に関する国際条約(バンカー条約)」及び「2007年の難破物の除去に関するナイロビ国際条約(ナイロビ条約)」に加入し、2020年10月1日に発効しました (参照: Japanese press release)。また、国内法の整備として「船舶油濁損害賠償保障法(油賠法)」を改正しました。
船主の責任範囲
海難事故により船舶が難破物(Wreck)と判断された場合、船主には難破物のある海域の影響国に通知する義務があります。そして影響国がその難破物を除去すべき危険なものと判断した場合、無過失であっても船主には難破物の位置の特定、標示および撤去を含む損害を軽減する措置を取る責任を負います。
ただし、難破物を生じさせた原因が次のいずれかであると船主が証明した場合、責任は問われません:
- 戦争、敵対行為、内乱、暴動又は例外的で不可避的かつ不可抗力的な性質を有する自然現象によって生じた海難の場合
- 損害を生じさせることを意図した第三者の作為又は不作為によって生じた海難の場合
- 灯台その他の航行援助施設の維持について、責任を有する政府や当局に過失やその他不法の行為があり生じた海難の場合
適用範囲
この条約は基本的に締約国の排他的経済水域に存在する難破物に対して適用されます。締約国の選択によっては領海を含む領域内でも適用されます。
保険の加入または金銭上の保証の義務付け
国際総トン数300トン以上の船舶の登録所有者は、難破物の除去に対する責任を担保するための保険またはその他の金銭上の保証があることを証明する必要があります。なお責任の限度については、責任の制限に関する適用可能な国内の又は国際的な制度に基づく責任の限度額に等しい額で1976年の海事債権についての責任の制限に関する条約(およびその1996年の改正、LLMC 1976 / LLMC 1996)に基づく額を超えない金額になります。上記の担保を保持していることを締約国の当局が証明した証書を船舶は本船上に備え置く必要があります。
また、被害者には損害を登録所有者の責任を担保する保険者に直接請求する権利が与えられています。
国際P&Iグループに加盟のクラブは締約国の当局が証書を発給するのに必要なBlue Cardを発行することを決定しております。締約国に船籍を有する船舶はその締約国の当局から条約証書を取得する必要があります。非締約国に船籍を置く船舶については、該当船舶が寄港予定の港やオフショア施設を管轄する締約国から証書の発給を受けることができます。発給に協力してくれる締約国からの発給を受けることもできます。この場合、船主はクラブに対しどの締約国での発給を希望するのかを連絡し、その国宛てのBlue Cardの発行を受けるようにしてください。